令和4年式の Sスペシャルパッケージが素晴らしい話

  大評判の990Sの影に隠れてしまっているが、NDロードスター Sスペシャルパッケージの2022年モデルは、それ以前とは「別物」と言って良い程の改良を受けている。この「事件」についての記事が見当たらないので、ここに書き記すことにする。


 画像右が令和元年式。2年9ヶ月2万5千キロ乗った元愛車。左が令和4年式9月に納車された現愛車。同車種、同グレードで、見た目は同じだが中身はまるで違う。

 大きな改良点は2つあって、ひとつは足回りの変更だ。令和元年式のNDは、それ以前に1度サスペンションの変更が行われているにも拘らず、良く言えば「助手席から苦情が来ない」悪く言うと「ぐにゃぐにゃで怖い」入力に対して車体が大きく傾くセッティングだった。柔らかなバネに強く制御しないダンパーが組み合わされていたのだった。それは街中では段差をいなし、突き上げ感の少ないファミリーカー的な乗り心地であったが、峠やワインディングでは伸び縮みが過ぎ、さらには前輪のステアリングインフォメーションの少なさ(後述)が輪をかけてタイヤを使い切ることなど不可能と言って良かった。

 令和4年式の足は違う。明らかに固さを増したバネに、縮んだ時は強く制御し、伸びた時はそうはしないダンパーが組み合わされている。伸び側はKPCがあるので、大きく制御しないのだと思われる。これらの変更により、段差での突き上げは強くなったが、角が無いので腰が傷む事はないし、旋回中は大きく傾かなくなり、前輪からのステアリングインフォメーションが増えた(後述)事と相まって、よりタイヤの性能を引き出せるようになっている。

 この足回り=バネ、ダンパー、スタビライザー、ブッシュ類にKPCを組み合わせたサスペンションシステムは、これまでの不満の全てを解消したと言っても過言ではない。サーキットやクローズドコース以外の公道で走行するのなら、Sスペシャルパッケージの足回りはこれで完成した言っても良い程に素晴らしい。マツダは何故この変更をアピールしないのか不思議だ。タイヤハウスの隙間に不満を覚える人以外には、最高のサスペンションシステムだと言うのに。


 2つ目の大きな改良点は、電動パワーステアリングのプログラムの変更だ。これもサスペンション同様に走り出しから違いが解るレベルだ。
 元年式はステアリングセンターが曖昧で、切り始めにタイヤが向きを変えていない印象だった。それにより動きが鈍い、鼻先が重いという気がしていた。実際はフロントミッドシップだし、前が重い訳は無いのだろうが、センター付近の曖昧な操舵感により、そんな思いがもたらされていたのだった。
 4年式では、まるでクリックが付いたかのようにセンターが正確になったし、操舵に対する反応の遅れも解消されている。さらに希薄だった前輪からのインフォメーションも改善されているが、これは電動パワーステアリングがもたらした最大の問題点だったと思う。
 元年式は、タイヤと路面の間に薄い柔らかな物(ヨガマット的な物)が挟まっている感じがしていた。それにやたらと傾くサスペンションが油を注いで、旋回中は怖い思いをしていたのだった。
 4年式では、車体の傾きも少なくなったし、希薄だった前輪のグリップ感も改善されたので、ようやくタイヤを横方向に使えるようになった。油圧に比べると電動のパワーアシストは良い話を聞かない事が多いが、この改良は2022年モデル以前のND乗りの方で、今後も長く「最後の純ガソリンエンジンのロードスター」に乗り続けたいと考えているのなら、この改良は乗り換えの大きな理由になるだろう。サスペンションとステアリングフィールはNDロードスターの最大にして致命的な欠点だったと思う。それらが改善されたことにより、Sスペシャルパッケージは生まれ変わったと言っても良い。これほど大きな変更をマツダは何故アピールしないのか本当に不思議だ。

 さて、次の事は「個人の感想」だと思って読み進めて欲しいが、エンジン制御のECUが変更されているのではないかと感じている。加速も減速もしていない走行状態から、アクセルを踏み足した時に反応が良くなっているのではないのか。元年式はもっと鈍かったように記憶している。燃料をより多く噴くように変更されているのではないだろうか。ただ、これは「気のせい」または「個体差」である可能性が否定出来ない。3千キロ走行した現在の燃費はリッター18キロ台後半で、以前と変わらない。

 続いて小さな改良点を2つ。ステアリングの根元のカバー(ウインカーレバーが生えている)の組み合わせが良くなっている。


 元年式のはタミヤの人が見たら頭を抱えてしまう程チリ・ツラが合っていなかったが、これでも大分改善されている。ロットが違うのだろうか? 
 そしてサイドブレーキの先端のパーツも元年式は好い加減この上ない雑な作りだったが、増しになっている。


 型を作り直したとは思えないので、これもロットの関係なのかもしれない。いずれも細かな事だが、改善されている。

 良い事ばかりではない。こんな時勢だけにコストダウンの跡も見て取れる。
 元年式のタイヤハウス内は遮音材で覆われていたが、4年式ではほぼ無くなっている。これによって騒音が増えたかと言えば、それこそ「気のせい」程度だし(そもそも屋根がないのでノイズだらけ)遮音材に水や冬場の塩水が含まれたままになる事を考えれば、無い方が良いと言えなくもないだろう。これは改悪とは言えないのではないか。
 シートの表皮も変わったと思う。元年式に比べると綿の量が減ったジャージ的な素材に変更されている。だからと言って機能的に問題はないが、おそらくこちらの方が安いのだろう。
 そしてトランクリッドの裏側の軽め穴の縁の一部にバリが残っているのは、人や時間の削減の結果ではないのか。元年式にはなかった事だ。


 さらに、これはないと思いたいのだが、NDロードスターには「高張力鋼材」さらには「超高張力鋼材」いわゆるハイテン材が多用さているはずなのだが、これがどうなったか気にかかっている。
 高張力鋼板=ハイテン材とは、軽くて丈夫で錆びにくい鉄板のことだ。NDには440MPaから1500MPaまでの材が、各メンバーやサイドシル、センタートンネルなどに使用されていたが、画像手前の旧フォントの2015年のカタログから2022年の物までどのカタログにも記載はされていない。自動車には当たり前に使用されているからだが、この時勢で数値の少ない物に置き換えられてはいないのだろうか? もしもそうなっていたならば残念なことだが、それはないと思いたい。軽さは燃費に直結するので、昨今大量生産されて低コストになっているはずだから、これは杞憂であって欲しい。
 その他エンジンや足回りの配線・配管も変わっているようだが、詳しくは解らない。いずれにせよ走りに関わる大きな改良は、初めに記したサスペンションとステアリングフィールの2点であり、これこそカタログに載せてアピールするべき大改善である。マツダは何故そうしないのか本当に不思議だ。


 私がお世話になっている販売店で一番売れているグレードは、990SではなくSスペシャルパッケージだそうだ。モニターとナビは必要。オープンデフは有り得ないと言うみなさんは積極的にSスペシャルパッケージを選ぶべき。Sスペシャルパッケージは決して990Sの代替品ではない。ストレス無く普段使い出来る「エンジョイドライブ特化型普通乗用車」としての面目躍如。2022年モデルの完成度は高い。最早欠点はない程の素晴らしい仕上がりだ。

 マツダロードスターND型は、あと数年で生産終了となる。そして次期NE型は電動化する(マイルドハイブリッド?)ことが明言されている。気になっているみなさんにはSスペシャルパッケージの試乗をお薦めしたい。そして、ここに書き記した「2つの大きな改良点」を体感してみて欲しい。

 NA(平成2年式)→ ND(令和元年式)→ ND(令和4年式)と乗り継いで来たが、現愛車が最高に気に入っている。もちろん10年と言わず15年20年と乗り続けたい思いだが、車を取り巻く環境どころか欧州の大干ばつで、早晩それどころではなくなりそうな気配さえある。だからこそ乗っておくべき車。ロードスターはそんな1台だろう。小型軽量幌車を作り続けてくれているマツダには、感謝しかない。次期NE型も魅力溢れる物になることを願うばかりだ。

 



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